風の音楽メモ 2004

  

ショル『アルカーディア』 


2003.2.8

■ショル『アルカーディア』
 指揮&チェンバロ:オッターヴィオ・ダントーネ
 アンドレアス・ショル(カウンターテナー)
 アカデーミア・ビザンティーナ
 DECCA UCCD1103   03.11.21発売
 
少し前になるけれど、カウンターテナーのショルの新譜がでている。
今回は「理想郷(アルカーディア)におけるニンフや羊飼いの素朴な愛」を
テーマにしたカンタータを収めたもの。
ガスパリーニ、マルチェッロ、パスクィーニなど、
17世紀から18世紀にかけて活躍した作曲家の作品で、
ぼくもこれらの曲ははじめて聴くものばかりでとても耳に新しい。
ショルの素晴らしい声はいうまでもない。
 
解説(アレッサンドロ・ボリーン)によれば、
この「アルカーディア」というのは、
 
        ローマに居を構えていたスウェーデンの元女帝クリスティーナ
        (1626-1689)の邸宅で、すでに17世紀の末葉、当時活発な
        活動を展開していた15人ほどの詩人たちによって設立されてい
        たイタリアの有名な文学的アッカデミーア
 
だったということで、
スウェーデンの女王クリスティーナといえば、
デカルトが晩年に招聘されてストックホルムに赴き
そのわずか数ヶ月後にその寒気ゆえにかそこで客死したことを思い出す。
 
下村寅太郎『スウェーデンの女王クリスチナ』(中公文庫)によれば
あのデカルトさえも動かした女王クリスティーナは
その後自らの意志で退位しローマに移り住み、1680年自分の館の中に
「政治的および文学的訓練のためのアカデミー」を設立したとある。
 
        この「アカデミー」は後に、「王立アカデミー」に拡張された。
        このアカデミーの規定は、女王自身が起草に当たった。その第一
        節には、「女王に対するすべての敬意や賛辞を決してしないこと」
        を規定している。
        詩、演劇、音楽に対しても、クリスチナは独自の趣味と見識をも
        っていた。お気に入りの詩人はアレッサンドローグイディ、ベネ
        ットーマンチニ。演劇、音楽のそれはマルコーマラゾーリ、パス
        キニ、コレリ、スカラッティ。造形芸術家としては。カルローマ
        ラッタ。ロレンツォーベルリーニ。
        学問に対する興味は古典学とともに自然科学を含む。科学者トリ
        チェリ、ヴィヴァニ、カッシニ、ボレリ、マルケッティと交際し、
        追放されたボレリを庇護した。古典学者フォシウス、ハインシウ
        スとはスウェーデン出国以降も文通を続けている。歴史家サムエ
        ルーフォンーフェンドルフ、天文学者ワスムートらに著作出版費
        を与えている。
        (P283-284)
        
こうしたことを見ていくと、
なぜデカルトがわざわざ自分の命を縮めるかもしれないような
寒い国に出かけていって、朝寝坊のデカルトであるにも拘わらず
クリスティナ女王に早朝からつきあう気になったのかが
少しながらわかるような気がする。
 
さて、肝心の『カルカーディア』。
あのクリスティナも聴いていたであろう曲の数々を
ショルの美声で聴いてみるのもまた一興だろう。
おそらくはクリスティナの住む館の一室に
数多くの芸術家や学者が集まったなかで
これらが演奏されていたのである。
 
 


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