風の音楽メモ 2004

  

坂本龍一『CHASM』 


2004.3.14

■坂本龍一『CHASM』
 WPCL-10071 04.2.25
 
素晴らしい、としかいいようのないアルバム。
やはりあきらめないで聴き続けてみると
坂本龍一ほどのミュージシャンだから、こうしたいいこともある。
おそらくこのアルバムはこれまでで最高の出来なんだろうと思う。
人間、歳を重ねるということで得られるものは確かにあるようだ。
 
付録についていたブックレット「教授、『CHASM』を語る」に
 
        本当、大満足。
        「エスペラント」と同じくらい、自分にとって大事なものが
        出来たという感じがしています。
 
とあるように、ぼくにとっても大満足。
そういえば、ぼくも「エスペラント」は
ほんとうに繰り返しきいていたことを思い出した。
やはり、坂本龍一自身も滅多に「満足」しているわけではないのだとわかる。
 
昨年秋にでていたデヴィッド・シルヴィアンとの「World Citizen」も
視聴しながらどうしようかと迷ったあげく結局買わなかったけれど、
ここに収められている「原型」のヴァージョンと
re-cycledのシルヴィアンのヴァージョンは
過剰さがなくてとてもいい。
デヴィッド・シルヴィアンが大好きなぼくとしても
こういうのがききたいのだ、というヴァージョンになっている。
そういえば、本棚を整理していたら
かなり前にでていた「へるめす」という雑誌に
デヴィッド・シルヴィアンと武満徹の対談はでていた。
「エンバー・グランス」についてのものだ。
その最後に、いっしょになにかやってみたいという武満徹のことばがあったが、
それが実現しないまま武満徹が亡くなってしまったのはとても残念だ。
 
さてさて、『CHASM』に話を戻すと、
細野晴臣と高橋幸広のSketch Showも
いろいろ参加していてなかなかうれしい。
 
付録のブックレットにある坂本龍一へのQ3に
「Sketch Showの存在は『CHASM』にどのような影響を与えましたか?」
というのがあってなかなか面白い答えをしているので
ご紹介してみることにする。
 
        現代に生きる音楽家として、大枠のところではきっと感じている
        ことが近いんだと思います。
        ただSketch Showのお二人とぼくとでは、表し方はかなり違うん
        だよね。それは、音楽のルーツが違うからじゃないかな。
        演奏する楽器も違うしね。Sketch Showの作品は2次元的な音の
        配置だと思うんです。細野さんも「空間性がいやだ」っていうよう
        なことを言っていたしね。それから逃れたいと。ぼくはむしろ自分
        の音楽の母体となる楽器がピアノやキーボードということもあって、
        身体性としては無意識のうちに2次元的に感じている音を、もっと
        3次元的に捉えたいと思っていました。今作ではその「3次元的な
        音の深度」を意識しています。そういう部分で、音楽的にずいぶん
        違って聴こえると思います。
        ただね、いくら細野さんや高橋くんが空間性を排除しようとしても、
        ぼくが聴くと、その電子音の中にもしっかりと身体性がある、そこ
        が面白い。
        Sketch Showはよきライバルであり、大切な「心の友」です。
 
「空間性がいやだ」っていうのは
たぶん2次元的であるというよりも
むしろ4次元的であろうとしていることなんだと思うんだけれど、
坂本龍一が自分の音づくりを「3次元的な音の深度」、身体性として
とらえようとしているのが面白いのである。
だから「OPERA」とかいうのもしたかったんだろうな、とか。
 
でも、音楽を「3次元的な音の深度」の方向で主にとらえるのは
音楽としてどうなんだろうなとか思う疑問もあって、
それでも今回のアルバムはとてもとてもいいし、
デヴィッド・シルヴィアンの渋い声も聴けたので、
これからもあきらめたりしないで
坂本龍一の新譜の出るのをちゃんとチェックしておきたいと思っている。
 


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