風の音楽メモ 2004

  ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー 


2004.6.22

■ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー
 UCCJ-1005 04.2.21
 
夏にはボサノヴァがいい。
究極のボサノヴァといえば、ジョアン・ジルベルト。
そして、ほぼ日で、「ボサノヴァをつくった男」、
ジョアン・ジルベルトについての特集が始まっている。
http://www.1101.com/joao/index.html
 
ジョアン・ジルベルトは現在72歳。
昨年の夏の終わり、はじめて日本でコンサートが開かれ、
それが録音されたのがこのCD。
4日間に渡るコンサートは、
「「奇跡」と呼ぶにふさわしい」ものだったそうである。
そして、すっかり日本の観客が気に入ったジョアン・ジルベルトは
今年の10月にも来日コンサートを開く予定だという。
 
神話のように語られる昨年の来日コンサートでのエピソード。
ジョアン・ジルベルトは、ギターだけを弾きながら歌うという
きわめてシンプルなもの。
事件が起きたのは、3日目のコンサートでのこと。
「拍手のなか、歌い終わったジョアンが
ステージで目を閉じたまま、ぴくりとも動かなくなった」
そしてそのまま、拍手のなかを23分間。
「永遠に続くかと思われた時間がすぎ、
もう拍手も(手が痛くて)限界だと思ったころ、
やがて──ジョアンはゆっくりと顔をあげて、
静かに、ふたたび演奏を始め」た。
「自分の音楽を、静かに、熱く聞き入り、
1曲ごとにおしみない拍手を送る日本のオーディエンスを前に、
心から「うれしい」と感じた」ということ。
 
ちなみに、「一人の音楽家が、ステージで
観客の拍手を浴び続けていた最長時間」は
ギネスブックでは、マリア・カラスが、70年代のスカラ座で、
22分の記録を持っているということだが、
このジョアン・ジルベルトは23分。
不思議な状態ではあるけれど、
23分間も拍手を続けられるだけの演奏を
ギター1本で歌うジョアン・ジルベルトをしたわけである。
 
アルバムのノート(宮田茂樹)によれば
ジョアン・ジルベルトは自らを語らず、音楽も語らないらしい。
自分のアルバムなどの作品にメッセージを寄せたことは一度もなかったらしい。
それが、このアルバムには、こんなメッセージが寄せられている。
 
        親愛なる日本のみなさんから頂いた優しさに、心からの感謝を捧げます。
        アリガトウ、ジャパン。
        アリガトウ。
 
このアルバムは当初、発売される予定はまるでなかったのを
自分のステージを確認するためにジョアン自身が録音したいたDATを聴いて、
「これをCDとして出したい。どう思う?」ということで
こうして発売されるに至ったという。
 
デビュー当時のジョアン・ジルベルトの言葉があるという。
 
        僕は音楽で自分を表現している。その音楽が音楽として良いのか悪いか
        だけが重要だ。言葉による説明や補足は必要ではない。音楽を言葉の世
        界に翻訳するのは不可能だ。
 
そして、その後45年間、それを貫いているそうである。
なかなかいい話ではないか。
昨年のコンサートでの写真がアルバムにも
ほぼ日のHPにも載っているが
72歳、いや昨年なので71歳か、の
音楽職人の顔はなかなかに素晴らしい。
 
このアルバム、一生ものかもしれない。
「ぼくもこんな顔をした72歳になれるだろうか」
そんなことを思いながら聴くジョアン・ジルベルトの
静かなギターと静かに沁みてくる声である。
 
 


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