2003

 

U2と80年代


2003.1.19

         僕はよく暗黒の80年代という言い方をする。60年代、70年代、
        ロックは多くの実りを手に入れた。そして、まだ数年残ってはいる
        が、90年代もロックにとって豊かな時代だったといえるだろう。
        それに対し、80年代、僕はロックに対し、何だかいつも苛だって
        いたような気がする。スタイルとして保守化するロック、ライブ・
        エイド等、変に道徳化するロック、そんなもんに一貫して違和感を
        覚え、イライラしていた。それでもロック・ファンでいられたのは、
        80年代、U2が居たからである。
        (…)
         “まだ名づけられていない道”“今だに見つけられていない自分
        が探し求めるもの”、こうした実現しない理想主義、しかし、それ
        を求め続ける希望、これがU2の最も重要なモチーフである。これ
        がメロディの切なさを生み、多くの人々の共感を呼ぶのである。浮
        かれた80年代、そのバブルな気分に対抗する最も安易な方法は、ニ
        ヒリズム、シニシズムに逃げる事であった。そこに行けば、自分は
        傷付かずに、周りを馬鹿にすることができる。しかし、ニヒリズム、
        シニシズムという相対主義は逃げ口上になっても、感情を呼ぶ作品
        は作れない。確かに80年代に反権力と理想主義を正面から主張する
        のは、かなり困難な事であった。
        簡単に言ってしまえばカッコ悪かった。それをU2は堂々とやって
        のけたのである。それは僕のようなロックは反権力と理想主義だと
        思っているロック原始人にとってとても心強い態度であった。しか
        も、U2はボノを筆頭に、優れた批評家でもあり、ニヒリズム、シ
        ニシズムからの批判に対し、しっかりとロジックで対抗できるだけ
        の知性をもっていた。
        (渋谷陽一/THE BEST OF U2 1980-1990ライナーノーツより)
 
ぼくにとっての80年代というのはどんな時代だったのだろうか。
このライナーノーツを読みながら考えていた。
これが書かれたのはまだ90年代の終わり頃で、
その後、THE BEST OF U2 1990-2000も
昨年暮れに発売になったりもしているので
ここに2000年以降のことを加える必要もあるのだろうけれど…。
 
そんなにU2をきいているほうでもない。
たまたま映画「ギャング・オブ・ニューヨーク」の
「ザ・ハンズ・オブ・ニューヨーク」がラジオから流れてきて、
『ヨシュア・トゥリー』(1897)をひっぱりだしてきいてみる気になった。
U2という存在と80年代。
 
ぼくにとっての80年代。
70年代あれほどきいていた音楽をきかなくなっていた時代
というふうにいえるのかもしれない。
きかなくなっていたというのは、
きく気がしなくなっていた、ということでもある。
フォーク、ポッポス、ロック、そしてジャズ。
それらの音楽がなんとなく味気なく感じられてきて、
耳から耳にすりぬけていくだけ。
何かをききたいとは切に思っているのだけれど、
それが何かはわからないという状態。
 
それは音楽だけのことでもなく、
ぼくにとってはそのほかのさまざまなことも同様だったように思う。
ある意味で、シュタイナーに出会うまでの10年間とでもいえるかもしれない。
そういえば、デヴィッド・シルヴィアンをよくきくようになったのも、
その頃のことだし、やっとクラシック系のものを
まとまってきくようになったのもその頃のこと。
 
80年代はバブルだとはよくいわれることだけれど、
ぼくにとってはそういう時代の流れとはまったく無縁だったようで、
ある意味で、まるで禅寺の修行のようにも感じられていた時代でもあった。
かろうじて働いて食ってはいたが、
yucca以外のだれともほとんどまともなコミュニケーションがとれない時代。
もちろん日常的というか社会的な慣習でいうならば、
日本語が話せないわけでもなかったのだけれど、
それらすべてがほとんど空疎で機械人形のようで、
しかもそれらが物理的な力のなかで翻弄されざるをえないような無力感…。
 
そういうことを思い出しながら、
U2の80年代、そして90年代をきいてみるのは、いい体験になった。
そのU2のベスト盤はこれ。
 
■U2 THE BEST OF 1980-1990  UICY-2554
■U2 THE BEST OF 1990-2000  UICI-1030
 
最近、坂崎幸之助のフォーク、ロックについての新書もでているけれど、
音楽を時代の流れのなかできいてみるという、
ある意味であたりまえのようなふりかえり方というのも、
いろいろテーマを変えてやってみると発見はたくさんある。
 
今から2000年代をふりかえる、というのはまだ早いけれど、
今こうして生きている時代を10年後、20年後に
どのようにふりかえるだろうかを考えてみるのも
ときには時代の濁流に呑み込まれないで、
自分を外から見るための重要な視点を得るためにいいかもしれない。
そして今きいている音楽のこともまたそうした視点をもってきいてみると、
また違ったきき方ができるかもしれない。
 
 


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