風のメモワール43

ネガティブ善男


2008.2.16

テレビドラマ「あしたの、喜多善男」で
小日向文世が主演している。
初の主演らしい。
原作は、島田雅彦の『自由死刑』。

この際と、その原作を読んでみているが、
人物設定やストーリーなど、かなり異なっているものの、
テレビとの違いもまた楽しむことができる。
たとえば、原作では1週間後に死ぬという設定だが、
テレビでは(おそらく11回シリーズだということで)
11日後に死ぬという設定になっている。

なにより、小日向文世がいい。
小日向文世のあの独特の味は、
ほかではまず出せないだろう。

あの不思議にやさしい哀愁のある気の弱そうな語り。
その喜び多き善き男である、喜多善男の前に、
シャドーのような「ネガティブ善男」がおりにふれて登場する。

小日向文世の一人二役なのだが、
その皮肉たっぷりで冷笑的な態度との対照を見ていると、
ひとごとではなくなってしまう。

もちろん、だれにでも自分を見る目というのはある程度はあって
「ネガティブ善男」のような、自分のネガの部分、
シャドー的な部分の「声」をふりほどきふりほどき、
耳にふたをしたりしながら生きているところがあるのだが
喜び多き善き男のネガティブというのは、なかなか迫真なのだ。

今回それにあわせて楽しめるのが
宵町しのぶという元アイドルである。
吉高由里子という役者が演じているが、
不思議な哀愁のある役どころ。
喜多善男に「善男ちゃん」とか呼ぶところなど、
たんに、バカアイドル的であるにもかかわらず、なぜか陰影がある。
なんか、ほんとうはすごい役者なのではないだろうか、とか感じさせるものがある。

原作では、宵町しのぶが聖書をもっていて、
イエスについて語るシーンなど、
別にそんなに特別なシーンでもないのに、
じーんとくるものがある。
喜多善男に頼まれて聖書、
ヨハネ福音書のラザロの復活のところを読むシーンとかがある。
意味深である(島田雅彦的には一種の小道具的な扱いだろうが)。