■教育に関する講演に関して
すでに1884年にルドルフ・シュタイナーは教育の本質をあらゆる国家の管理から自由なものとするよう求めています。第一次世界大戦の混乱から、シュタイナーはこの考えを社会生活の新しい形態の包括的な提案と結びついたかたちで新たに提示することになりました。こうした理念が未来を導く力となることから、ヴァルドルフ・アストリア・タバコ工場社長のエミール・モルトは、彼の工場労働者の子供たちための学校の設立を準備しその指導を引き受けてくれるようシュタイナーに依頼しました。1919年の秋、最初の自由ヴァルドルフ学校をシュトゥットガルトに開校することができました。それは、全世界で数多く展開することになった学校設立の出発点となりました。教師や関心を持った一般の方のためのセミナーや約200回の講演で、シュタイナーは、繰り返し別の観点から出発しながら、精神科学的な人間学の基礎について述べ、ほとんどすべての授業の領域のための方法論や教授法を新たなものにするための多くの提案を行ないました。
■GA303 人間存在の健全な発展/人智学の教育学及び教授法への導入
■GA306 精神科学的人間認識の観点から見た教育実践/子どもと青少年の教育
1919年シュトゥットガルトでの最初の「自由ヴァルドルフ学校」の開校の週に、シュタイナーは、その学校の新たな課題を準備するために、彼の選んだ主な教師たちのための教授法の課程を持ちました。この15日間に渡る課程は、次のように分けられました。朝は毎日「教育学の基礎としての一般人間学」(GA293)について講義が行なわれ、それに「方法論的教授法的な問題」(GA294)についての講義が続き、午後にはセミナー形式で、「教授法的な演習(GA295)」が行なわれました。この課程の段階に関しては、当時の参加者が人智学的精神科学の基礎を熟知していることを考慮し、ルドルフ・シュタイナーは詳細な説明を行なうことができました。
Allgemeine Menschenkunde als Grundlage der Paedagogik(I)
1919年8月21日から9月5日までの14回の講義
(Taschenbuch Tb 617)
*邦訳/
「教育の基礎としての一般人間学」
(高橋巌訳/築摩書房または新田義之訳/人智学出版社)
Erziehungskunst.Methodisch-Didaktisches(II)
1919年8月21日から9月5日までの14回の講義
(Taschenbuch Tb 618)
*邦訳/
「教育芸術1 方法論と教授法」(高橋巌訳/築摩書房)
Erziehungskunst.Seminarbesprechungen und Lehrplanvortraege(III)
1919年8月21日から9月6日までの
15回のセミナー討議と3回の教育課程に関する講演。
(Taschenbuch Tb 639)
*邦訳/
「教育芸術2演習とカリキュラム」(高橋巌訳/築摩書房)
(1919年8月9日から17日までの6回の講義)
Die Erziehungsfrage als soziale Frage
Die spirituellen,kulturgeschichtlichen und sozialen Hintergruende
der Waldorfschl-Paedagogik
●主な内容/
・現代の歴史的な要請。子供の教育。模倣、権威、愛。
・現代におけるギリシア及びローマの魂の状態の余韻。
・商品、労働、資本。その、イマジネーション、友愛;インスピレーション、平等;イントゥイション、自由に対する関係。
・教員養成の問題としての教育。
・人間の知性の変容。
・エゴイズムの克服、現代の人間の内的課題。
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この内容からもわかるように、シュタイナーの「教育」に関する取り組みは、「社会問題」を重要な背景として生まれてきたものだといえます。シュタイナーの社会論として有名な「社会の未来」として訳されている講演集は、1919年の2月21日、3月1日に行なわれた講演と10月24日〜30日の連続講演を集めたものですけど、前回ご紹介したGA293-295の「一般人間学」をはじめとした講演が、1919年の9月に行なわれたことからもわかるように、また、「社会の未来」のなかには、「精神問題、精神科学、教育制度-社会芸術」という内容が含まれているように、「教育」について考えるということと「社会」の諸問題を考えるということとを切り離して考えることはできません。
1919/1920年のシュトゥットガルト、バーゼル、ドルナハでの講演。
(未刊行)
1919-1924年のシュトゥットガルトのヴァルドルフ学校の
子供、親、教師のための講演及び挨拶。
付、論文「ヴァルドルフ学校の教育学的基礎」
ルドルフ・シュタイナーは、1919年に設立され1925年の死に至るまで、シュトゥットガルトの自由ヴァルドルフ学校を定期的に訪問し、子供、親、教師に何度も講演などを行ないましたが、これはその記録です。この巻に収められている講演や挨拶は、シュタイナーが特に学校の定礎式や開校の際や祝典、父母会の夕べで、または教職員の前で行なったもので、その都度の学校での出来事に沿ったものでもあります。しかし、そこには同時にヴァルドルフ学校の教育のための基礎となっているものがたくさんあります。
*邦訳/
「シュタイナー先生、こどもに語る」
(松浦賢訳/イザラ書房)
Geisteswissenschaftliche Sprachbetrachtungen
1919.12.16〜1920.1.3、
自由ヴァルドルフ学校の教師への6回の講義
これらの講義は、叙述の仕方によって、1919年(GA293-295)の基礎的な教員養成過程に連なるものです。シュタイナーは、実際に例を挙げながら演習を行なっています。
●主な内容/
・言語生成過程の歴史の簡単な概観
・言語生活の有機的考察についての示唆
・言語を変化させる力とその精神生活への関係
・民族魂の進化の例としての言語史的現象
・言語における実際の意味と感覚の変遷
・言語現象とその発展を見出すという基本方針
Die Erneuerung der paedagosich-didaktischen Kunst
duruch Gesiteswissenschaft
1920.4.20-5.11、バーゼル
公立学校の教師のための14回の講義
このいわゆる「バーゼル教員演習」は、1919年に設立されたシュトゥッツガルトのヴァルドルフ学校の教育学的な基礎づけを行なったもので、精神科学に関心をもった公立学校の教師を対象としたものです。
●主な内容/
・精神科学と現代の教育法
・人間存在の三分節化
・教育学の基礎としての人間認識
・未来の人間の魂内容の造形者としての教育者
・教科課程についての若干のこと
・オイリュトミー、音楽、図画、言葉の授業
・教員養成の問題としての教育
・9歳から12歳の動物学及び植物学の授業
・方言と書きことば
・人間存在及び教育における統合と分析
・教育における律動的な要素
・歴史及び地理学の授業
・子どもの遊び
Konferenzen mit den Lehrern der Freien Waldorfschule
1919-1924
第1巻:詳細な序(E.ガーベルト)/1919-1921の会議
第2巻:1921-1923の会議
第3巻:1923-1924の会議
Menschenerkenntnis und Unterrichtsgestaltung
1921.6.12-19、シュツットガルト
自由ヴァルドルフ学校の教師のための8回の講義
(1919年の基礎的な教育学演習のための「補足講義」)
自由ヴァルドルフ学校が創設された2年後に、シュタイナーは教師のための講義を行ないました。この講義では、上級学校を創るという観点から、特に思春期に関連した問題がテーマになっています。教師自身の成長やその世界観が授業に関してどのような意味を持っているのかが示され、さらに、方法論的教授法的及び人間学的なさまざまな問題が扱われています。
*邦訳/
「十四歳からのシュタイナー教育」(高橋巌訳/筑摩書房)
Erziehung und Unterricht aus Menschenerkenntnis
1920,1922,1923,シュトゥットガルト、
自由ヴァルドルフ学校の教師たちのための9回の講義
これらの講義も、1919年に行なわれた教師のための基礎的な演習を補完し、授業の実践に関するさらに重要な観点や、教師の人格を内的に訓練するための課題を伝えるものです。
●瞑想的に習得される人間学
(1920年の4回の講義)
・中央ヨーロッパの教育者という職業について
・教育の基礎となる3つの力について
・霊的な人間認識が教育芸術を促す
・教育芸術は、成長する人間の身体的本性と霊的存在様態を平衡させる
●資格取得者を対象とした教育についての質問/授業の芸術的な形態について
(1922年の2回の講義)
●教師という職業を内的に貫くための示唆
(1923年の4回の講義)
・体育教師、修辞学教師、博士とその生きた統合
・教育における治癒的な力と病気をつくりだす力
・教育者のファンタジーの源泉としての人間認識の概観
Die gesunde Entwickelung des Menschenwesens
Eine Einfuehrung in die anthroposophisne Paedagogik und Didaktik
1921年12月23日-1922年1月7日、ドルナハ
16回の講義と3つの質疑応答
(教師のためのクリスマス演習)
この一連の包括的な講義では、特にさまざまな年齢層の方を考えに入れながら、基本的な人間学的テーマや教育学及び教授法に関連したことを述べ、さらに、ヴァルドルフ学校の内的な構造や外的な建築について詳しく述べています。そして最後には、特別に、美的、身体的、倫理的、宗教的な教育についての3つの講義が行なわれました。
Erziehung- und Unterrichtsmethoden
auf anthroposophischer Grundlage
1921,1922,諸都市、7回の公開講義
●主な内容/
・人智学的精神科学と現代文明の問題
・教育、授業と実際生活の問題
・健康な人間と病気の人間の認識の教育学的な意味
・ヴァルドルフ学校の教育学的な基礎
・教育に関係した演劇
・シェークスピアと新しい典型
Anthroposophische Menschenkunde und Paedagogik
1923,1924,諸都市、9回の公開講義
●主な内容/
・教育学と芸術
・教育学と道徳
・なぜ人智学的教育学なのか?
・ヴァルドルフ学校の教育学
・人智学と教育学
・道徳的及び身体的な教育の芸術
・教育の諸問題について
Die geistig-seelischen Grundkraefte der Eiziehungskunst
Spirituelle Werte in Erziehung und sozialem Leben
1922年8月16日-29日、オックスフォード、12回の講義
付、特別講義、オイリュトミー演習のための2回の導入的な挨拶、結びの言葉
この巻には、シュタイナーが「オックスフォード休日会議」で行なった講義がすべて収められ、教育のスピリチュアルな基礎全般についての質問からはじめて、そこから起こってくる教育の諸問題へと展開されています。シュタイナーは、それまでの3年間に起こった出来事やシュトゥットガルトのヴァルドルフ学校での授業や生活を通して、スピリチュアルな観点から教育を理解することのできるような理論と実践との間の接点となるものを作り上げようとしました。「社会問題」というテーマに関連した教育学についての3つの講義では、「社会有機体三分節化」という意味での社会的課題を認識するための観点が述べられています。
*邦訳/
「教育の根底を支える精神的心意的な諸力」
(新田義之訳/人智学出版社)
Die Paedagogische Praxis vom Gesichtspunkte
geisteswissenschaftlicher Menschenerkenntnis
---Die Erziehung des Kindes und juengeren Menschen
1923年4月15日-22日、ドルナハ
8回の講義、3つの質疑応答、挨拶
ヴァルドルフ学校は通常の学校とどこがちがうのか。ヴァルドルフ学校での通常の授業やエポック授業はどのように理解されるべきなのか。子どもの肉体的な成熟の過程においてはどういうことが、またどのような教育的な基準が考えられるのか。教師や親によるこうした数多くの質問が、この教育学講義では、詳細に扱われています。シュタイナーの行なった具体的な授業実践の数多くの例を通じて、今日の読者にも、ヴァルドルフ学校の根底にある意図について理解することができます。
*邦訳「シュタイナー教育の実践/理想の学校とは」
(西川隆範訳/イザラ書房)
Gegenwaertiges Geistesleben und Erziehung
1923年8月5日-17日、イギリス、イルクリー、14回の講義
イギリスにおいてオックスフォードに続いて行なわれた(GA305)このイルクリーでの教育に関する公開講義では、特に現代の精神から再生したギリシアの教育という観点のもとでのヴァルドルフ学校が描き出され、さらにその上で、個々の授業領域の方法についてのさまざまな示唆がなされています。
■主な内容
・序/イマジネーション、インスピレーション、イントゥイションにより
認識、芸術、宗教、道徳性を結びつけること
・I/現代の文明はなぜ新しい教育方法を求めているのか?(4回の講義)
・II/新しい教育方法は何に基礎を置くべきか、
またそれはどうあるべきか?(5回の講義)
・III/ヴァルドルフ学校の基礎と設立(2回の講義)
・IV/新しい教育方法の社会的帰結(2回の講義)
・補遺/3つの討議と2つの辞
*邦訳
「現代の教育はどうあるべきか/現代の精神生活と教育」
(佐々木正昭訳/人智学出版社)
Die Methodik des Lehrens und die Lebensbedingungen des Erziehens
1924年4月8日-11日、シュトゥットガルト、5回の公開講義
■主な内容
・人間存在を現実に認識することを基礎とした教育芸術
・教授法と教育の生存条件
・彫塑、音楽、言語により人間の本質的な構成要素を捉えること
・個々の科目のための授業を芸術的に取り扱うこと
・人間の道徳教育
Anthroposophische Paedagogik und Voraussetzungen
1924年4月13日-17日、ベルン、
5つの公開講義、3つの質疑応答、教育のためのオイリュトミー上演のための辞
■主な内容
・新たな有機的組織のためのモデルとしての遺伝的身体
子どもの有機的組織やその後の成長に作用する教師の気質
・有機的組織における冬の活動としての覚醒と夏の活動としての眠り
思考活動の形成のための表象の練習
・生の変容。演習形成。
・模倣と権威について
Der paedagogische Wert der Menschenerkenntnis
und der Kulturwert der Paedagogik
1924年7月17日-24日、アルンハイム/オランダ、10回の公開講義
■主な内容
・教育学的な態度の人間全体の認識からの蘇生
・人間の年齢における区分
・世界への関係を基礎づけることを通して
子どもの本性へ生きた歩み寄りをすること
・自由ヴァルドルフ学校において教育学的な基本を実際に現実化すること
・教育学に生活と世界の視点を持ち込むこと
・人間の有機組織における気質的なもの
・教育芸術の人智学運動への関係
Die Kunst des Erziehens aus dem Erfassen der Menschenwesenheit
1924年8月12日-20日、トーキー/イギリス、7回の講義と質疑応答
これは、イギリスでの第三回目の連続講義で、シュタイナーが行なった最後の教育講座であり、平易にかつ具体的にシュタイナーの教育に関する考え方の全体像が述べられているということから、シュタイナー・カレッジの教員養成講座でも最初に読むべき一冊として推薦されているということです。
「わたしはこの講座において、午前中は『精神探究の正しい道と誤った道』というテーマについて協会員と人智学の友人たちに連続講義をした。午後は、人智学の精神にもとづく学校を創設しようとしている教員たちのために連続講義を行なった。イギリスにヴァルドルフ学校をモデルとした小学校を設立しようとしている教師たちのために、わたしは教育学講義をおこなったのである。まず、教師に必要な見解、<教育芸術>の実行に欠くことのできない心魂の態度を明らかにしようとした。そして、個々の教科、学科についての方法論的な示唆を与えようとした。この教育学講座では、ほんとうの人間認識に基づいた授業実践が提示される。」
*邦訳/
「人間理解からの教育」(西川隆範訳/筑摩書房)