●ルドルフ・シュタイナー

 「シュタイナー教育の基本要素」を読む

 第一章/精神科学の立場からの子どもの教育


人間は、肉体、エーテル体、アストラル体、自我という4つの構成要素から成る。肉体は物質体であり、エーテル体は植物や動物と共有している要素であり、肉体はエーテル体からつくられる。アストラル体は、動物界と共有している要素であり、快と苦、喜びと苦痛、欲望と衝動、通常の思考世界、意志衝動の担い手であって、感情体とも呼ばれる。自我は、自分に向かって「わたし」といえる能力を与えるものを包括するもので、これは人間のみが有しているものである。

人間は、生まれてから成人するまでに、この四つの構成要素のそれぞれが発展し、形成されていく。通常の人間の誕生とは肉体の誕生であり、その後七歳頃に乳歯が永久歯に生え変わる頃エーテル体が誕生し、一四歳頃アストラル体が誕生する。(男の子は一六歳頃)それぞれの時期にはそれぞれ肉体、エーテル体、アストラル体の成長にふさわしい教育を心がけなければならない。

七歳までは身体を発育させるために、子どもの感覚に働きかけることが重要である。この時期には子どもの模倣衝動が決定的な役割を果たすので、感覚器官を通してその模倣を通じた働きかけによって肉体器官が形成させることに注意を払わなければならない。子どもは、道徳的な事柄を含め、知覚するものすべてが肉体器官を形成する意味を持つ。この時期の子どもに対しては、教育者は模範でなければならない。

七歳から十二歳では、権威、信頼、畏敬ということが重要である。この年齢では判断力に働きかけてはいけない。この時期に畏敬の念をもつことができることで人間をその後自由を得るための土台を得ることになる。この時期には、教育者は子どもにとって権威でなければならない。原理原則ではなく、人間を信じることが大事である。記憶、習慣、性格の基礎はこの時期に構築されなければならない。この時期に形成されたものが、その人間の永続的な良心、性格、気質等となる。

思春期になってアストラル体的な覆いがとれてそれが発育はじめると、判断力・批判的悟性の形成が課題となる。この七年期にはには原理原則が必要である。

*以下、実践的に人生を把握するものとしての精神科学(霊学)ということについての引用を。

 

人間の本性の認識をとおして、精神科学は教育者に必要な洞察を与えます。精神科学は理論であってはならず、また信念を教え込むものであってもなりません。精神科学は、実践的に人生を把握するものです。精神科学は健康な生命を生み出し、人間の身体と精神を健全なものにします。精神科学は正しい真理であるだけではなく、健全な真理であるのです。その健全な真理が、人生全体に流れ込まねばなりません。わたしたちは、精神科学をとおして人類によく仕えることができます。成長する子どもから力を導き出すことによって、わたしたちは人間に社会的な力を供給することができるのです。成長する子どもは、生命の最大の謎です。この謎を実践をとおして解く者がほんとうの教育者であり、教育者は人間形成の謎を解く者なのです。

 

●ルドルフ・シュタイナー

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 第一章●補足


人間は生まれてから7歳までは肉体が生まれ発達し、7歳からはエーテル体が生まれ発達し……というのは、まず、生まれる前、肉体は母親の身体の一部であるように、生まれて7歳まではエーテル体とアストラル体は肉体の形成に関わり、いわば肉体の母胎として働き外には向かわないということです。同じように、7歳から14歳までは、主にエーテル体が発達し、アストラル体はその形成に関わるもののまが外には向かわないといいます。そして、その発達のプロセスを急ぎすぎると、その後の発達に支障ができてくるということになります。

こうした発達に関しては、治療教育に関するシュタイナーの講義が非常に参考になると思われますので、「治療教育講義」(角川書店)より、わかりやすい例を挙げてみたいと思います。(第十講より)

 

まず取り上げたいのは、一番年長の十六歳の少年です。この子の傷害は、自我とアストラル体が肉体の中で十分に働けないことにあります。彼は比較的おくれて皆さんに託されました。皆さんは十六歳以前の彼とは一緒に過ごしたことがありませんが、すでにかなり進行した前歴がありました。もっと前からこの子に治療を加えることができたら、そしてこの子がヴァルドルフ教育の、「歯の生え変わりから思春期までの時期には権威ある教育をする」という原則の下に教育を受けることができ、彼の興味を惹く事柄に先生の眼が届いていたなら、そしてそこからさらに彼の興味を広げていくことができたら、そしてそこからさらに、適切に処方された鉛治療を受けさせることができたなら、この少年は現在もっと違った魂の水準に達していたはずです。……彼には能力が十分あるにもかかわらず、エーテル体と肉体が傷害となって、その能力を行使することができないのです。

このように多くの障害というのは、自我とアストラル体が肉体とエーテル体に適切なかたちで浸透できないということにあるそうですが、それは多くの場合、各自期における不適切な発育が原因になっているといいます。

シュタイナーは、現在シュタイナー教育として有名になっている1919年の自由ヴァルドルフ学校の創設以来の教育に関する講義や実践を踏まえ晩年の1924年に若い治療教育家たちの要望に応えて、この治療教育講義を行いましたが、そこでもこの7年毎の肉体、エーテル体、アストラル体、自我の発達の考え方は、非常に重要なのです。

さて、補足として、参考までに、それぞれの7年期の課題とその社会的意味等について述べられているのをご紹介したいと思います。引用は、「社会問題としての教育問題」より。(「シュタイナー教育小事典」(イザラ書房)所収)

 

「人間が社会有機体のなかで成長すべきなら、人間は自由な存在にならねばならない」と、いわねければならない。人間は、子どものとき可能なかぎり模倣をすることによって、自由な存在になる。自由に関するあらゆる政治的な熱弁にもかかわらず、子どものころにふさわしい模倣の力が植えつけられなければ、人間は自由な存在にはならないだろう。なぜなら、このような方法で子どものころに植えつけられたもののみが、社会的な自由の基盤となりうるからである。

七歳から思春期、一四、五歳まで、子どものなかに、権威への従順と名づけうる力が生きる。……思春期以前に、子どもが独自の判断をするようになることほど悪いことはほかにない。…子どものころに権威感情を植えつけられなかったら、大人になったとき、人間の平等な権利が達成されないのである。学校のなかに社会主義が持ち込まれるとき、大人になったとき人間の平等な権利が実現されない。七歳から一四歳のあいだに、真の権威の上に人生を築くことによってのみ、人間は社会的に公平な共同生活へと成熟するのである。

思春期以降、一四・五歳から二十一歳までに、一般的な人間愛の特殊な形として、性的な愛情生活が発展する。…この年齢のときに一般的な人間愛、外界への愛が育成されないと、歴史的な要求である経済生活の構成が友愛、すなわち普遍的な人間愛によって燃え立つことはけっしてない。……模倣は、ただしい方法で、自由を発展させる。権威は権利を発展させる。友愛は経済生活を発展させる。正しい方法で愛が発展させられなかったら、自由が欠如する。正しい方法で模倣が発展させられなかったなら、動物的な衝動が大きくなる。 

この模倣−自由、権威−権利、愛−経済という関係は、シュタイナーの社会論の基本でもある社会有機体三分節の考え方の教育的基盤でもあります。つまり、精神における自由、法における平等、経済における友愛、です。シュタイナー教育というのは、この自由、平等、友愛という理念を実際の社会のなかで実践していけるような人間を育てるものでもあるわけです。 


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