十二感覚ノート

 

アルバート・ズスマン

「人智学講座 魂の扉・十二感覚」

 (人智学叢書4●耕文舎+イザラ書房/石井秀治訳/1998年春)


1998.12.19

 

 シュタイナーの感覚論は、5つの感覚ではなく、それ以外の7つの感覚を加えた12の感覚ということが基本となっています。通常論じられる5つの感覚というのは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。シュタイナーはそれに次の7つの感覚を加えます。生命感覚、運動感覚、平衡感覚、熱感覚、言語感覚、思考感覚、自我感覚です。ちなみに、仏教では、それに「意」を加えた眼耳鼻舌身意ということをいいますね。

 この12感覚については、主には教育に関する高橋巌さんの著作で興味をもっていたので、それについてもっと詳しく知りたいと思っていました。しかし、本書が半年ほど前に刊行されたのは知りながら、通常の書店では扱っていない関係から、読むのがやっと今になってしまいました。耕文舎からは、「人智学叢書」として「J.ぼっけみゅーる:植物の形成運動」「E.メース−クリステラー:人智学にもとづく芸術治療の実際」「W.ホルツアッペル:体と意識をつなぐ四つの臓器」を含め、現在4冊刊行されていて、今回それらをまとめて取り寄せたのですが、残念ながら、「植物の形成運動」だけは品切れになってしまっていました。

 さて、今回こうして12感覚についての精神科学的探究を読み進めながら、それがとても優れた「人智学」への「扉」にもなっていることを実感させられました。以前から、シュタイナーを読み始めた方から、シュタイナーの人智学を理解するためのアプローチ方法についていろいろご質問を受けるのですが、そのたびごとに、ぼく自身がまだまだ無理解だというのもあって、どう答えていいものか、考え込んむことが多いのですが、本書で、次のようなことが述べられているのがとても印象に残りました。

 人智学の理解へと向かう道はたくさんあります。私たちはもちろん、それらの道のなかから一つを選び取らなければなりませんが、その道は、誰もが自分の仕方で選び取ればよいのです。私は特定のテーマから出発しようと思いますが、一般的な人智学から始め、そこから特定のテーマを見出すこともできるでしょう。興味深いのはしかし、あるテーマから出発し、そしてそこから人智学へと歩み登っていくこともできるということです。この講座では一般から特殊へと向かう代わりに、最終的には全体へと到達するために、むしろ特殊から出発する逆の道を皆さんと共に歩んでいきたいと思います。

 私たちの出発点はルドルフ・シュタイナーの感覚論です。かつてルドルフ・シュタイナーは、感覚論はそもそも人智学の最初の章であると述べています。彼はそのように言うことで、感覚論が最も身近な章であることを示しています。なぜなら感覚は、まさに世界と出会うための道具なのですから。(P15)

すでに最初の晩に述べましたように、皆さんは人智学の第一章を学んできたわけですが、この第一章がどのような世界であるかがおおよそお分かりになったのではないかと思います。同じく最初の晩のことでしたが、この第一章はすべてを包括するものである、とも述べました。今私は、それに加えてこう言うことができます。人智学のどの章を選び取ろうとも、やはりそれはすべてを包括する章なのだ、と。そしてそれは、人智学の人智学たる所以なのです。人智学はいわゆる還元主義には立脚しておりません。いや、まったく反対なのです。携わる領域がごく小さなものであるにしても、それは包括的な視点から見ることなしには理解できませんし、一方、包括的な全体は小さな部分からは決して理解されえません。すべては最小単位である原子に基づいてこそ理解されるのだと言われています。しかし、一つの原子を理解するのにも、すべてを包括する世界観が必要となります。そして、感覚とはそのような小さな領域なのです。(P186)

 シュタイナーの示唆した12感覚というのは、「小さな領域」なのかもしれませんし、ひとつひとつの感覚に対して、それを実感しながらアプローチしていくというのは、あの壮大な人智学的世界へのアプローチのほんの入口なのかもしれないのですが、読み進むにつれ、それにアプローチしていくためには、人智学全体への射程が必要とされるのだということが実感されていきました。身近な自分の感覚のひとつひとつがあの壮大な世界への確かな入口であり、同時にそれらを包括することのできるものでもあるのだと。

 実際、本書を読むことは、どの感覚についても、驚きと発見の連続でした。ひとつひとつの感覚の意味するものについてもそうでしたし、感覚相互の関係についてもまた壮大な宇宙を感じさせられることになりました。そして、人智学がいかに根源的でありながらそれがいかにあらゆることに展開可能なものであるということを再認識させれらた気がします。本書は、まさしくある意味で、「人智学入門」として、同時に、つねにそこに立ち返ることのできる応用書としても位置づけることができるのではないでしょうか。

 最後に、この12感覚とその6つの対極性について、本書にまとめられてあるものを引用させていただくことにします。

●4つの肉体的感覚は4つの霊的感覚に向かい合っている

 *肉体的感覚/触覚・生命感覚・運動感覚・平衡感覚

 *霊的感覚/自我感覚・思考感覚・言語感覚・聴覚


1 触覚 12 自我感覚

境界に気づくことで    他者の境界内に入り込み

   自分自身に気づく 他者の自我に出会う

 

2 生命感覚 11 思考感覚

自らの体調の 他者の霊(思考)の

良し悪しを感知する 真実と虚偽を感知する

 

3 運動感覚 10 言語感覚

自らの活動を感知し 他者の霊的活動と

自らを身体の動きで表わす その顕れを感知する

 

4 平衡感覚 9 聴覚

重力場(創り出された世界)で 素材を形づくっていた霊を

方向づけをする 解放する(創造する力の解放)

 

●4つの魂的感覚はそれぞれ二つずつ向かい合っている

 *魂的感覚/嗅覚・味覚・熱感覚・視覚


5 嗅覚 8 熱感覚

自らを空にし 関心をもって

満たされるに任せる(物質的に) 世界へと流れ出る(非物質的に)

 

6 味覚 7 視覚

軽量しうるものを調べ 軽量しえないもの(太陽と光の

自らの小宇宙へと取り込む 作用)を大宇宙の内に体験する

(内へ向けて) (外へ向けて)

 


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