ルドルフ・シュタイナー

『神秘学概論(GA13)』ノート

28 月紀3:水と意識状態


2002.4.13

 

 
         土星紀における人間存在の肉体は、熱形態であった。太陽紀には、それが
        ガスもしくは「空気」状にまで濃縮された。月紀になると、アストラル成分
        がそこに流れ込むので、ある時期に、肉体成分は、さらに濃縮度を強め、現
        在の液体に比較できるような状態にまで達する。
          この状態を「水」とよぶことができる。けれどもこの言葉は、現在のわれ
        われの水を意味しているのではなく、なんらかの流動的な存在形態を意味し
        ている。人間の肉体は、このようにして、今や次第に、三つの構成体から成
        る存在形態をもつようになる。そのもっとも濃縮された部分は、「水体」で
        ある。この「水体」は空気の流れに浸透されており、そしてさらに、そのす
        べてを貫いて熱が作用している。
        (P195)
         当時の人間は、養分を動物的な植物界から取り出してきた。この動物的な
        植物は、浮動もしくは浮遊して、容易に相互に合生し、ちょうど現在の下等
        な水中動物が水の中で、そして陸棲動物が大気の中で生きているように、周
        囲を取り巻く成分の中で生きていた。けれども、当時の環境成分は、現在の
        意味での水でも空気でもなく、この両者の中間の、一種の濃縮された蒸気の
        ようなもので、その中でさまざまの存在体が、蒸気のさまざまの流れに融け
        込むようにして、あちこちへと浮動していた。
        (P205)
 
現在の地球紀には、気体、液体、だけではなく固体が存在しているが、
月紀においては、いまだ固体状態は存在していなかった。
月紀も進んでくると水状態が濃縮化されて
「ねばねばした形態」をとるようになるとはいうものの、
現在のような固体としての物質状態ではなかったのである。
 
土星紀においては、空気状態でさえ存在しない熱状態であり、
太陽紀においては、液体状態さえ存在しない空気状態だった。
こうして、あたりまえのように固い物質に取り囲まれていて
自分自身の肉体にしてもちゃんと硬い骨があって
自分と外界とが明確に分離されそこで活動していると
そうした熱状態、空気状態、水状態をイメージするのはなかなか難しいが、
これをイメージするというのも、いわゆる「対象のない思考」の訓練になる。
 
ところで、こうした水状態においては、
現在のような人間の意識、つまり対象認識は可能ではなかった。
対象意識が可能になるためには自我が働く必要があるが、
自我は現在のような地球紀の状態においてはじめて人間に生じたのである。
 
         月紀の人間の意識を理解しようとするなら、当時の人間が、前述した蒸気
        のような環境に埋没して生活していたことを考えねばならない。この蒸気成
        分の中には、多種多様ないとなみがあらわれていた。いろいろな素材が結び
        合ったり、分離したりしていた。ある部分は濃縮され、別の部分は希薄にな
        った。そのようないとなみはすべて、人間の眼や耳によっては直接知覚され
        ず、人間の意識の中で、形象となって現れた。
         その形象は、現在の人間の夢の形象と比較できる。眠っている人間は、何
        かが床に落ちたとしても、その事柄を実際に知覚しないで、なんらかの形象
        を、たとえば射撃の情景を夢に見る。月紀意識の形象は、夢の形象のように、
        勝手な現れ方はしない。象徴像ではあっても、外の出来事に対応している。
        特定の事柄に対しては、まったく特定の形象だけが立ち現れる。それゆえ月
        紀に人間は、そのような形象にしたがって、態度を決めることができた。
        現在の人間が知覚に従って行動するようにである。ただ、知覚に基づく場合
        は、勝手な行動をとることができるが、このような形象の影響のもとに行動
        する場合は、まるで暗い衝動に駆り立てられるようにして行動する。
        (P206-207)
 
月紀における人間の意識は、上記にもあるように形象意識、夢意識であった。
現在の夢意識そのものではないが、
人間はもっとも高次の構成要素としてアストラル体を有していて、
「蒸気のような環境」のなかで可能なのがその意識だったのである。
 
太陽紀においては、空気状態のなかで
人間はもっとも高次の構成要素としてエーテル体を有していて、
そのときの意識は睡眠意識であり、
土星紀においては、人間は熱状態のなかで、
肉体を有し、昏睡意識であった。
 
人間の進化のプロセスにおいては、
熱ー空気ー水という惑星状態と
意識の状態とが深く関係していたであろうことが推察される。
 
現在のように外界を知覚することができるためには、
自他未分のような状態ではなく、
対象をある程度自分とはわけてとらえることのできる
固体状態になった惑星状態が必要とされ、
そのなかで自我が発達できるようになったのだといえる。
 
しかし、現在のような自我の状態にまで至ったといっても、
人間は対象意識だけで生きているわけではもちろんなく、
かつての惑星状態における意識そのものではないがそれと比較できるような
夢意識、睡眠意識、昏睡意識をも有していて、
そうした意識状態を自分ではほとんど把握できない。
夢のなかで自分の手を見ることさえも困難なように・・・。
 


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