ルドルフ・シュタイナー

『神秘学概論(GA13)』ノート

38 地球紀8 自己意識の獲得のための肉体


2003.5.28.

 

地球紀において人間は自我を得ることになったのだが、
そのことは同時に地上的になるということ、
つまり肉体のなかに閉じ込められる度合いが強くなるということでもあった。
 
地上においてもっとも進化した人間であるともいえる
「キリスト秘儀参入者」こそがもっとも早く、いわば肉体的になったのである。
それまではエーテル体は肉体から比較的自由であったのが、
その両者が非常に強く結びつくようになった。
そのことで、無限の「記憶力」は消え、
思考力としてあらわれてくるようになった。
 
         キリスト秘儀参入者の指導者は、ある期間、ごくわずかの弟子たちとともに、
        孤立していたが、この弟子達に宇宙の秘密を、ごく限られた範囲内でしか伝える
        ことができなかった。なぜならこの弟子たちは、生まれつき肉体と生命体がとを
        分離させることが最も少ない人間たちだったからである。そのような人たちが、
        その頃には、人類のそれからの進化にとって最上の人材だった。
        (…)
         このように肉体とエーテル体との結びつきが人類のなかに次第にあらわれたが、
        それはアトランティスの居住地のみならず、地球全体に生じた変化の結果であっ
        た。人間の肉体は、生命体とますます重なり合うようになった。そしてその結果、
        これまでの無限ともいえる記憶力が消えてしまい、その代わり思考力が新たに育
        ちはじめた。肉体と結びついた生命体部分は、頭脳を本来の思考器官にかえた。
        このようにしてはじめて、人間は肉体のなかで己れの「自我」を感じるようにな
        った。この自己意識の目覚めは、はじめはごく僅かな人びと、特にキリスト神託
        の指導者の弟子たちのなかでのみ生じた。
        (P279-280)
 
人間が「自我」、「自己意識」をもつためには
自分が肉体のなかにいるということが必要となる。
それは、進化が逆進化と対応しているということでもある。
高次のものを得ていくということは、
それまでより低次のありようを身にまとうということでもあるのである。
 
進化するということは、どんどん高次の様態になっていくことであるかのように
理解しているひとがあるとすればそれは大きな錯誤であるといえる。
たとえば、第一ヒエラルキーこそが物質的なものに働きかけることができる。
それに対して、第二ヒエラルキーは主にエーテル体に、
第三ヒエラルキーは主にアストラル体に働きかけるのである。
 
ちょうど先日、シェリングの『クララとの対話』(1809-1812頃執筆)を
読んでいたところ、次のような印象的な箇所が目にとまった。
 
        精神的霊的なものと正反対のものをあらかじめ徹底的に認識した人にしてはじめて、
        精神的なものに目を向けることができるのでして、それは必然的なものと自分の活
        動の条件を知る者のみが、自由な人間の名に値するのと同じです。成長してはじめ
        て人間は自由に至るのであり、自由もこの世界では必然性の暗がりのなかから身を
        もたげ、その最後の現われにおいてのみ、説明のできない神的なもの、永遠の稲妻
        として輝き出るのである。その稲妻はこの世の暗闇を照らしますが、活動しつつも
        またすぐに暗闇に呑み込まれてしまうのです。
         (シェリング『クララとの対話』
         キリスト教神秘主義著作集16/近代の自然神秘思想 教文館 所収 P438-439)
 
ニューエージ的な錯誤のなかに「解脱病」というのがある。
悟るためには、この地上的なものから「解脱」しなければならないというのである。
そのために、かつて仏陀もさまざまな苦行を行なったが、
そうした極端なありかたが間違いであることがわかり、
もっとも美しい音色を奏でられる「中道」を歩むようになった。
それでも仏陀の在り方はあまり地上的ではなかったのだけれど…。
 
高次の在り方を認識するということは、
逆にこの地上的なさまざなにこそ目を向ける必要があるだろう。
もちろんそれは地上的なものに埋没するということではなく、
物質がいかに本来霊的なものであるかをより深く認識するということなのである。
 


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