ルドルフ・シュタイナー

『神秘学概論(GA13)』ノート

41 意識と無意


2003.9.7

 

         人間は睡眠と覚醒の外に、なおもう一つ第三の魂的な状態を獲得できた
        とき、高次の諸世界の認識に至る。(…)
         睡眠時の深い眠りの中で、感覚の印象が遮断されている場合、それにも
        かかわらず魂が意識を保つようになれるだろうか。そのような場合、日中
        の体験の記憶は存在しない。一体、魂は無の中にいるだけで、どんな体験
        をも持ち得ないのだろうか。
         この問いに答えるには、ひとつの状態を実際に作り出すことができなけ
        ればならない。それは、感覚の働きやその働きの記憶が存在しないときに
        も、魂が何事かを体験することのできる状態、もしくはそれと似ている状
        態である。そのような場合の魂は、通常の外界に関しては睡眠時と同様の
        状態にあるが、しかし眠っていないで、覚醒時に現実の世界と向き合って
        いるときのようであろう。
        (P311-312)
 
『神秘学概論』の「高次の諸世界の認識」の章へ入る。
 
人の意識はふつう、起きているときの意識、眠っているときに夢を見ている意識、
夢を見ないで眠っているときの意識、という3つの意識に区別できるが、
夢を見ないで眠っているときの意識はまったく存在してないのだろうか。
この章はその問いかけからはじまる。
 
シュタイナーは、人間は肉体、エーテル体、アストラル体、自我で構成されていて、
眠っているときには、アストラル体と自我が肉体とエーテル体から離れているという。
死に際しては、エーテル体、アストラル体、自我が肉体から離れる。
エーテル体は生命体でもあるので、まさに生命が離れていくのである。
 
さて、精神分析などで「無意識」といわれる意識の状態があるが、
それはとてもあいまいでわかりにくいし、
そもそも意識というのが何なのかについてもよくわかないのだけれど、
シュタイナーの意識についての説明は、ぼくにとってはとてもわかりやすいし、
精神科学的な世界観において一貫した形で位置づけられている。
 
その「無意識」をとらえるために、超感覚的世界の認識を得る「行」が
必要とされるということなのだけれど、その場合にも、
自分がそれを得なければそれについて理解できないというのではなく、
この『神秘学概論』の「十六版から二十版までの序章」にもあるように、
「見霊能力がなくても、とらわれぬ意識を持つ者にとって、
見霊者の思考形式を通して表現された霊視内容は、完全に理解可能なのである。
画家でない人が、画家の完成した作品を理解するのと同じように、理解できるのである。
しかも霊界の理解は、芸術作品のように、芸術的、感情的な理解を必要とするのではなく、
自然認識の場合と同じように、もっぱら思考の働きによってなされる。」。
 
しかし、「神秘学の性格」の章にも述べられているように、
「可視的な世界の背後には、隠された世界など存在しない」という人や、
そういう世界を人間は認識できないという人もいて、というか
現代においてはそうした人であるか、そうでなければ、
かなりあぶない夢想家のようになりがちである。
 
前者にしても後者にしても、「意識」とはいったい何なのかが
結局のところはよくわからないままになってしまうし、
ある意味で、今この起きているときの意識そのものについても、
それがいったい何なのかさえよくわからないままである。
 
仏教などでは世界はマーヤ(幻)であるとかいわれるのだが、
それがなぜそうなのかということもただのナンセンスになってしまうだろう。
おそらく世界がマーヤなのであるというよりも、
世界をとらえようとする意識がマーヤであるがゆえに、
世界がマーヤとして立ち現われてくるということなのだろう。
荘子は人が蝶になった夢を見ているのか、
むしろ蝶が人になった夢を見ているのかわからない
という魅力的な寓話を残しているが、
この意識というのはそれそのものが神秘そのものである。
 
シュタイナーの意識についての説明は
現在の覚醒意識を絶対化するものではもちろんなく、
無意識を神秘めかして説明するものでももちろんない。
意識する主体のありかたを問い直し変容を促すことによって、
みずからが世界をより確かに生きたかたちで認識できるよう
方向づけるものとなっている。
 
この章はそうしたことについての概観を与えるものとなっている。
ご存じのようにこの章は『いかにして超感覚的世界の認識を得るか』と
併せて読むことによってより理解を深められるようになっている。
 
 


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