ルドルフ・シュタイナー

『神秘学概論(GA13)』ノート

42 修行の前提


2003.9.11

 

         本書の意味での超感覚的な認識のための修行にとって大切なのは、
        当然生じるべきいくつかの誤解をあらかじめ解いておくことである。
         そのような誤解の一つは、修行が人生を別のものにしてしまう、
        と思うことである。しかし行は、一般的な生き方の指針を与えよう
        とするのではなく、それを実行すれば、超感覚的なものを観察する
        可能性を与えてくれるような、魂のいとなみについて語ろうとする。
        超感覚的なものの観察に関係のないような生活のいとなみに対して、
        この修行はどんな直接的な影響も及ぼさない。人はこれまでの人生
        のいとなみに加えて、超感覚的な観察力を身につける。この観察活
        動は、ちょうど目覚めと眠りの状態のように、人生の通常のいとな
        みから区別される。決して一方が他方を妨げはしない。
        (…)
         第二の誤解は、超感覚的な認識へ導く魂の在りようは、身体組織
        の変化を問題にしている、と思い込むときに生じる。
         そのような魂のありようは、生理学その他の自然認識の問題とは、
        まったく何の関係ももっていない。それは健全な思考や知覚そのも
        のと同様に、一切の物質的な在りようからまったく離れた、純粋に
        霊的、魂的な経過なのである。このいとなみによって生じる魂の在
        りようは、健全な表象や判断によって生じるものとまったく変わり
        はない。健全な思考が身体と関係しているのと同じ程度に、超感覚
        的な認識のための真の修行の諸経過は、身体と関係しているのであ
        る。そうでない仕方で人間に関わっているすべては、真の霊的修行
        ではなく、修行のカリカチュアにすぎない。
        (P318-319)
 
シュタイナーの示唆している修行は、
基本的に現代人にとってだれにでも適用できる方法であって、
それによって「出家」することが求められたり、
超越的なパワーを身につけようとしたりするのではなく、
またそのために山にこもったり水にもぐったりするような
超人養成的な修行とはまったく異なっている。
あくまでも物質世界を対象とした通常の認識の射程範囲に「加えて」、
そこから離れた「霊的、魂的な経過」によって育成される能力がある
ということなのである。
 
上記引用の二つの示唆が重要なのは、修行とかワークだということで
この二つの点に抵触するものが多いということであると思われる。
「生」をスポイルしたり、「生」から逃避させたりすることによって、
この「生」が深められるということはないだろうし、
呼吸法を工夫して特殊な身体状況をつくりだしたり、
苦行や薬物などを通じて身体的な変化をつくりだすことで
なんらかの「超能力」を得ようとする在り方は
そもそもの土台となっているこの地上での身体をスポイルすることになり、
そのスポイルされたところから生み出された能力によって
映し出される世界がいかなるものであるか想像するのは容易であろう。
 
しかしたとえば、プラトンは数学の基礎を学んでない者は
その哲学の学校への入学が許されなかったように
神秘学を学ぼうとすれば、思考の訓練は少なくとも必要になる。
 
シュタイナーは『神智学と心理学』(『心理学講義』平河出版社・所収)のなかで、
プラトンが要求した条件というのは、
数学を学ばなければならないというのではなく、
「人間には数学を学ぶことが可能である」ということを
理解していることが重要なのだと述べている。
 
        思考の訓練をしない者、自己観察をなしとげることのできない者には、
        たんなる観察だけではもっとも簡単な数学の定理さえ得られないとい
        うことがわかりません。自然のなかにはほんとうの円、ほんとうの直
        線、ほんとうの楕円はどこにも存在しません。そして、内面から得ら
        れた世界を、わたしたちは外界に適用するのです。この事実をじっく
        り考えることなしには、心魂の本質をほんとうに観照することはでき
        ません。(P20)
 
シュタイナーの示唆している「高次の諸世界の認識」のための修行も、
そのように「人間には数学を学ぶことが可能である」ということを理解する、
ということがその出発点にあると思われる。
 
 


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