池田 「むすび」の問題でもうひとつ言っておかなければいけないことがあります。 これはいまく説明できないんですが、天皇になる資格を持つためには、いくつかの 魂をむすびこめる必要があった、ということですね。つまり、日の神の系図の上に のせられるためには、天皇霊という名前の霊魂が必要であった。そして大和の国を 治めるために国魂としての大和の魂が必要であった。そこで中臣氏あるいは猿女に よる鎮魂と、物部氏の鎮魂、この二つによって霊魂を補充しないと天皇になれなか った、ということなんです。 谷川 猿女の場合はどちらですか。 池田 天皇霊ですね。こういう形がありますから、なかなか大和の国に入れない天 皇もでてくるんです。 谷川 継体天皇なんかがそうですね。 池田 ええ、あの天皇は、二十年も周辺で待っていなければならなかった。それは大 和の国魂がなかなか結びつかなかったからなんです。天皇にはなったけれど、大和を 治める威力が身につかないから大和に入れない。こうしたことは歴史上でも明らかに 考えられることですから、霊魂を保持させるための「むすび」の技術、「むすび」の 神は考えられなければなりません。 (池田彌三郎・谷川健一『柳田国男と折口信夫』 岩波書店/同時代ライブラリー202 P133-134) 池田 「水の女」以来、折口は水の妃のことをすっと考えていたようです。宮中のこ とですからたいへん晦渋な文章になっていますが、火の系統と水の系統があって、双 方の女が宮中に入って宮中のまつりが完成する、というようなことを考えていたよう です。妃は水の神の系統、とすると中宮は、これはナカツスメラミコトの変化だから、 どうも火の神の系統じゃないか。ここまでは折口は言っていませんで、また僕の単純 化がすぎているのかも知れないんですが、このあたりが解けると、折口信夫の古代学 のかなり重要な部分が解明できそうな気がします。 (同上/P211) 国神と天神のむすび。 火の神と水の神のむすび、火水(かみ)。 天皇霊というのはその「むすび」にかかわっていたのかもしれない。 国神の神託と天神の神託とをむすぶ。 火の神の神託と水の神の神託をむすぶ。 「大和の国を治めるために国魂としての大和の魂が必要であった」 大和(やまと)は、大きく和すると書く。 大きく和することができるというのが「大和の魂」だったのかもしれない。 シュタイナーは『神秘学概論』で ブルカン星、水星、金星、土星、木星、火星、 そして太陽の神託があったことを記している。 土星、木星、火星の秘儀参入者は、その秘密を 「上からの啓示」として受け取り、 それを「比喩の中で」語らなければならなかったのに対して、 ブルカン星、水星、金星の秘儀参入者は、その秘密を 「自分自身の思考形式」で受け取ることができ、 それを「観念」で伝達することができたという。 「日の神の系図の上にのせられるためには、天皇霊という名前の霊魂が必要であった」 というのは、太陽神託に関係しているのかもしれない。 それはおそらく「キリスト」衝動を受け入れるための前段階の神託であり、 古代において蘇我氏が仏教を導入しようとしたというのも、 そこに絡めて考えてみると面白い。 そして、聖徳太子は、厩戸皇子と呼ばれ、和をもって尊しとした。 その「和」を「むすび」の比喩としてとらえてみるのも面白い。 日の神、天照大神ーー天皇霊ーー太陽神託の秘儀参入者。 そして、日本にはさまざまなかたちの神社があり、 さまざまな神々がそこには祀られている。 そこに祀られているのは、かつてあった さまざまな神託と関連したものなのかもしれない。 |
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