Q クマに出合ったらどうすればいいんですか? A そうですね、それこそがアラスカにおける永遠のテーマの一つ なんだけれども、誰も正しい答えは持ってないんですよ。でも僕が 思うのは、みんな、二つの間違いを犯すケースが多いんです。一つ は怖がりすぎるということ。クマと出合った時に、やっぱりクマも 怖いわけだからとっさに判断するわけですよね。怖いから襲うか、 怖いから逃げるかって。そういう時にこちらが落ち着いていると、 クマにもそういう気持ちが伝わると思うんです。犬が、犬を嫌いな 人をすぐ察知するように。そういう感覚を持っているはずなので、 怖がりすぎるのはやっぱりよくない。もう一つの間違いは、ぜんぜ ん気にしないってこと。キャンプをしている時にはどこかで気を付 けていないといけない。本当にルーズになるとダメなんですよね。 キャンプしている時に食糧なんかのことで、どこかでルーズになっ ていくととても危ないです。 (「星野さんへの質問箱」より 雑誌コヨーテ No.2 特集・星野道夫の冒険 から/P93) 以前ご紹介した雑誌コヨーテの特集が「星野道夫の冒険」。 これはとても読み応えがあって、このところいつも持ち歩いている。 そういえば、星野道夫さんの写真と文章を読んだのは、 以前SINRAに連載されているものくらいだったかもしれない。 その後、星野さんはクマに襲われて急逝することになるが、 この引用は、講演のときに観客との質疑応答を集めたもののなかから。 最近、日本でもクマが里に出没しているというニュースをよく耳にする。 エサが不足しているということから、北陸のクマにドングリを贈ろうということで 全国から4トン集まったということについて、 研究者から「生態系を乱す」「自然に干渉しすぎ」との批判もあったらしい。 深い山道を歩くときなどには、 クマにいきなり出合うことを避けるために、 クマよけの鈴などを鳴らしておくほうがいいようだけれど、 クマも「怖いから襲うか、怖いから逃げる」ということなわけで、 できれば互い近づかないでおければそれに越したことはないということである。 それでふと思ったのだけれど、人に「出合う」ときなどにも、 クマに出合うときとそんなに違わないところもあるのではないだろうか。 クマには言葉などはもちろん通じないけれど、 むしろ言葉が使える部分だけさらに複雑な難しさが増えるともいえる。 その複雑さの部分は別としても、 「二つの間違いを犯すケース」というのは確かにある。 「一つは怖がりすぎるということ」。 もうひとつは「ぜんぜん気にしないってこと」。 やはりどちらも人との出会いとしては致命的な間違いにもなる。 こちらの気持ちはやはり伝わってしまうところがあるので、 こちらが怖がっていたりして開かれていないと 相手も同じようになってしまう可能性が高い。 それに、まったく相手の存在を気にしていないでルーズになっていると こちらはまったくコミュニケーションしようとしていないわけで、 ときにその配慮のなさは相手に対して致命的な作用を及ぼしてしまう。 これは、自分が自分に出合うということに関してもいえることで、 自分で自分を怖がりすぎると自滅的になってしまうし、 自分を見る目がまるでいいかげんになっていると 自分そのものが無意識というブラックボックスの化け物になってしまう。 |
■「風のトポスノート501-600」に戻る ■「思想・哲学・宗教」メニューに戻る ■神秘学遊戯団ホームページに戻る |