「四次元」

数学と現実

多次元空間に関する講義の聴講ノートと数学のテーマについての質疑応答

GA324a

Rudolf Steiner:Die Vierte Dimension 

佐々木義之訳 

第5講


1905年5月31日、ベルリン

 前回、私たちは四次元空間図形を三次元へと還元することによってそれを視覚化しようとしました。最初、私たちは三次元図形を二次元図形に変換しました。私たちは、立方体のもつ三つの次元を表現するために三つの色を用いて私たちのイメージを構築するという方法で、次元を色で置き換えましたね。次に、その立方体を展開し、すべての面が平面上に横たわるようにしたのですが、その結果得られた六つの正方形においては、異なった色をもつ軸が二次元空間のなかで三つの次元を表現していました。

 そして、私たちは、立方体の表面である各正方形の第三の次元への移行を、色のついた霧のなかを移動させて別の側から再び出現させることとして思い描きました。私たちはすべての正方形の面が移行正方形を通過し、その色を帯びる、と想像しました。こうして、私たちは色を使って、三次元の立方体を二次元のなかに描こうとしたのです。正方形を一次元のなかで表現するためには、二種類の異なった色をその対になった各辺のために用い、立方体を二次元のなかで表現するためには、三つの色を用いました。四次元図形を三次元空間のなかに描くためには四つ目の色が必要でしたね。

 そして、三つの異なる面の色をもった立方体を二つの異なる辺の色をもった私たちの正方形と同様のものとして想像しました。そのような立方体のそれぞれが第四の色の立方体を通って移動しました。つまり、それは第四の次元、もしくは色のなかに消えたのです。私たちはヒントンの類比に従って、境界をなす立方体のそれぞれを新しい第四の色のなかを通って移動させ、反対側からそれ自身の色で再び現れるようにしました。

図31

 さて、もうひとつの類比を示したいと思います。四次元を三次元に還元するための準備として、もう一度、三次元を二次元に還元することから始めましょう。私たちは私たちの立方体をその六つの正方形の面から構成されているものとして思い描かなければなりませんが、それを展開するときには、六つの正方形のすべてがつながったままになるようにではなく、ここに示すように(図31)、それらを別様に配置することにします。お分かりのように、私たちはその立方体をそれぞれ三つの正方形を含む二つのグループに分けました。両方のグループとも同じ平面上にあります。私たちが立方体を再構築するときには、それぞれのグループの位置を理解していなければなりません。立方体を完成させるためには、ひとつのグループをもうひとつの上に置いて正方形6が正方形5の上に来るようにしなければなりません。正方形5をその場所に置くと、正方形1と2は上に、正方形3と4は下に折り曲げなければなりません(図32)。そのとき、対応する線分の対−つまり、同じ色の線分(図31のなかでは、同じ数と重さのスラッシュで示される)−は一致します。私たちが三次元空間への移行を行うとき、二次元空間中では分散しているこれらの線が一致することになるのです。

 

図32

 正方形は四つの辺、立方体は六つの正方形、そして、四次元図形は八つの立方体から構成されます。ヒントンはこの四次元図形をテサラクト(四次元立方体/訳註・日本語では「正八胞体」と呼ばれている)と呼びます。私たちの仕事は、単にこれら八つの立方体をまとめてひとつの立方体にすることではなく、それぞれを四次元空間を通過させることによってそうする、ということなのです。私が正に立方体に対して行ったことをテサラクトに対して行うとき、私は同じ法則を観察しなければなりません。四次元図形がその三次元的な写しとどのような関係にあるかを見いだすためには、三次元図形のその二次元的な写しに対する関係との類比を用いなければなりません。展開した立方体の場合には、三つの正方形からなる二つのグループがありました。同様に、四次元的なテサラクトを三次元空間のなかに展開しますと、その結果として四つの立方体からなる二つのグループができます。それらはこのように見えます(図33)。この八つの立方体による方法は実にすばらしいものです。

図33

 私たちは、二次元空間中で正方形を取り扱ったのと全く同様にして、三次元空間中で四つの立方体を取り扱わなければなりません。私がそこで行ったことによく注意して下さい。立方体が二次元空間中で平面になるように展開すると、結果としてグループ化された六つの正方形になります。同じ操作をテサラクトに施すと、結果としてシステム化された八つの立方体になります(図34)。私たちは三次元空間上での考察を四次元空間に移し替えたことになります。三次元空間のなかでそれらの辺が一致するように正方形を組み立てるということは、四次元空間のなかでそれらの面が一致するように立方体を組み立てることに相当します。立方体を二次元空間のなかに平面として横たえますと、結果として私たちがその立方体を再び組み立てたときに一致することになる対応する線が得られました。テサラクトにおいても似たようなことが各立方体の面に関して起こります。テサラクトを三次元空間のなかに展開すると、結果として後で一致することになる対応する表面が得られるのです。ですから、私たちが四次元のなかに移行するとき、テサラクトのなかでは、立方体1の上の水平面は立方体5のこちら側の面と同じ平面のなかに横たわることになります。同様に、立方体1の右の面は立方体4のこちら側の面と、立方体1の左側の面は立方体3のこちら側の面と、そして、立方体1の下の面は立方体6のこちら側の正方形と一致します。他の面の間にも同様の対応が存在します。その操作が完結したとき、残るのは立方体7、つまり他の6つの立方体に取り囲まれた内部の立方体です。

図34

 お分かりのように、ここで私たちがもう一度携わっているのは三次元と四次元の間の類比を見いだすということです。前回の講義で私たちが見た図にもありましたが(図29)、ちょうど二次元空間のなかでだけ見ることができるいかなる存在も四つの他の正方形に取り囲まれた五番目の正方形を見ることができないように、この例の場合にも、七番目の立方体に関して同じことが言えます。それは三次元的な視覚には隠されたままに留まるのです。テサラクトにおいては、この七番目の立方体は八番目の立方体、つまり四次元のなかにおけるその写しに対応しているのです。

 これらの類比のすべては私たちが四次元への準備をするのに役立ちます。と申しますのも、空間に関する私たちの通常の観点のなかには、私たちが慣れ親しんだ三つの次元に他の次元をつけ加えることを強制するものは何もないからです。ヒントンの例に従って、ここでまた色を使ってもよいでしょう。対応する色が一致するように立方体を組み立てることを考えてみましょう。そのような類比を用いるのでなければ、四次元図形について考察する方法については、ほとんどいかなる指針も与えることができないでしょう。

 では、実際に何が問題になっているのかについて、理解をもっと容易にするために、三次元空間のなかで四次元物体を表現するための別の方法についてお話ししたいと思います。ここに正八面体があります。その八つの三角形の面はお互いに鈍角で合わさっています(図35)。

図35

 この図形を想像し、そして、私と一緒に次のような一連の思考を追いかけてみて下さい。お分かりのように、これらの辺は二つの表面が交わるところに存在しています。例えばふたつがABで交わり、ふたつがEBで交わっています。八面体と立方体の間の唯一の相違は、表面が交わる角度です。立方体のなかではそうであるように、表面が直角に交わるときにはいつでも、形成される図形は立方体でなければなりません。しかし、ここでそうなっているように、それらが鈍角で交わるときには、八面体が形成されるのです。表面が異なった角度で交わるようにすることによって、異なった幾何学図形を構成することができます。

図36

 次に、八面体の表面を交わらせる別の方法を思い描いて下さい。AEBのようなここにある面のひとつがあらゆる方向に広げられると想像して下さい。(図36)下側の面BCFと、図の向こう側にあるADFとEDCも同様に広げられます。これらの広げられた面もまた交わらなければなりません。この対称軸に関しては二重の対象性が存在していますが、それは「半分裏返しになった対象性」とも呼ばれます。これらの面が拡張されるとき、最初にあった八面体の四つの面、ABF、EBC、EAD、そしてDCFは除去されます。最初にあった八つの面から四つが残り、これらの四つは四面体を形成しますが、それは半分の八面体と呼ぶこともできます。何故なら、それは八面体の面の半分を交差させることになるからです。それは八面体を真ん中から半分に切るという意味で半分の八面体なのではありません。八面体のそれ以外の四つの面をそれらが交わるところまで拡張しても四面体ができます。元の八面体はこれらふたつの四面体が交差したものなのです。立体幾何学あるいは幾何結晶学においては、半分の図形と呼ばれるものは元の図形を二つに分けたというよりは、面の数を半分にした結果のことをいいます。八面体の場合、これを視覚化するのは非常に簡単です。同様に、ひとつの面を別の面と交わらせることによって半分にした立方体を想像してみるならば、得られるのはいつも立方体です。立方体の半分はいつでももうひとつの立方体なのです。この現象から重要な結論を引き出すことができますが、とりあえずもうひとつの例を示してみましょう。

 ここにひし形十二面体があります(図37)。お分かりのように、その面は特定の角度で交わっています。ここにはまた異なる方向に走る四本のワイヤー系−それらを軸ワイヤーと呼びましょう−がありますが、それらはつまり、ひし形十二面体のなかで反対側にある特定の角を結ぶ対角線です。これらのワイヤーはひし形十二面体の軸システムを表していますが、それは立方体のなかに考えることができる軸システムと同様のものです。

図37

 三つの直角に交わる軸システムのなかで、これらの軸のそれぞれに関して堰き止めが生じ、交差面が形成されますと、その結果として立方体が生じます。異なった角度で軸を交差させますと、その結果として異なる幾何立体が生じます。例えば、ひし形十二面体の軸が交わる角度は直角ではありません。立方体を半分にすると立方体が得られます。これは立方体に関してだけ成り立ちます。ひし形十二面体の面を数を半分にすると、全く異なる幾何図形が生じます。

 さて、八面体の四面体に対する関係とはどのようなものか、ということについて考えてみましょう。つまりそれはこういうことです。もし、私たちが四面体の八面体への変換を段階的に行うならば、その関係は全く明瞭になります。その目的のために、ここに示すようなひとつの四面体を取り上げて、その頂点を切り落としてみましょう(図38)。私たちは、切断面が四面体の辺上で出会うまで、より大きな塊を切り落とすことを続けます。切り落として残った形が八面体です。私たちは適当な角度で頂点を切り落とすことによって、四つの面で仕切られた空間図形を八つの面をもつ図形に変換したことになります。

図38

 四面体に対して今行ったことを立方体に対して行うことはできません。立方体は三次元空間の写しである点において独特です。宇宙の全空間がお互いに直角な三つの軸で構築されていると想像して下さい。これら三つの軸に直角な平面を挿入すると、いつでも立方体が生じます(図39)。ですから、私たちが、ある特定の立方体というよりは理論的な立方体の意味で「立方体」という言葉を使うときには、私たちはいつでも三次元空間の写しとしての立方体について語っているのです。ちょうど八面体の面の半分をそれらが交わるまで拡張することによって、四面体が八面体の写しであることを示すことができるように、ひとつひとつの立方体もまた空間全体の写しなのです。もし、空間全体を正であるとして想像するならば、立方体は負になります。立方体はその全体性において空間の対極にあるものです。物理的な立方体は幾何学的な図形ですが、本当に空間全体に対応するものなのです。

図39

 二次元平面によって境界づけられた三次元空間のかわりに六つの球によって境界づけられた空間があると仮定して下さい。その空間は三次元空間です。私はまず交差する四つの円、つまり二次元的な図形によって二次元空間を規定することから始めます。今、これらの円がどんどん大きくなると、つまり、半径がどこまでも長くなり、中心点がますます遠くなると想像して下さい。時間の経過と共に、円は直線に変化するでしょう(図40)。そのとき、そこにあるのは四つの円ではなく、四つの交差する直線とひとつの正方形です。

図40

 さて、円の代わりに、桑の実状の形態をとる六つの球を想像して下さい(図41)。ちょうど円がそうしたように、球がどこまでも大きくなると思い描いて下さい。これらの球は、ちょうど円が正方形を規定する直線になったように、ついには立方体を規定する平面になるでしょう。その立方体は六つの球が平面になった結果です。ですから、立方体とは、ちょうど正方形が四つの交わる円の特別な例に過ぎないように、単に六つの交わる球の特別な例なのです。

図41

 平面にまで広がるこれら六つの球が、以前に立方体を規定するために私たちが用いた正方形に対応していることにはっきりと気づくとき−つまり、球状の図形が平らな図形へと変化させられるのを視覚化するとき−その結果として生じるのは最も単純な三次元図形です。立方体は交差する六つの球を平らにした結果であると想像することができるのです。

 円周上の点は円周上にある他の点に辿り着くためには、二次元を通過して行かなければならない、と言うことができます。けれども、もし円が非常に大きくなって直線を形成するまでになると、円周上のどの点も一次元を通過して行くだけで他のどの点にも辿り着くことができるようになります。二次元図形によって境界づけられる正方形について考えてみますと、正方形を規定する四つの図形が円である限り、それらは二次元的ですが、直線になるやいなや、一次元的となります。

 立方体を規定する平面は三次元図形(球)から発達してきます。それは六つの球のそれぞれからひとつの次元が取り去られることによってです。立方体を規定するこれらの表面が生じるのは、次元が三から二に減少させられることを通して、まっすぐに引き延ばされるからです。それらは次元をひとつ犠牲にしました。それらが第二の次元に入って行くのは、奥行きという次元を犠牲にすることによってなのです。ですから、こう申し上げてもよいでしょう。空間の各次元はひとつ上の次元を犠牲にすることによって生じる、と。

 二次元的な境界を有する三次元的な形態があるとして、三次元的な形態は二次元へと還元される、とするならば、私たちは次のように結論づけなければなりません。三次元空間を考えるときには、それぞれの方向は、無限の円が平らになったものと考えるべきである、と。そのとき、私たちが一方の方向に動くとすれば、いつかは反対の方向から同じ場所に戻ってくることになるでしょう。このように、通常の次元空間はそれぞれひとつ上の次元が失われることによって生じたのです。三軸系は私たちの三次元空間にとって本来的なものですが、その三つの直角に交わる軸のそれぞれは、直線になるために、ひとつ上の次元を犠牲にしています。

 こうして、私たちはその三つの軸方向のそれぞれをまっすぐにすることによって、三次元空間を達成します。その経過を逆転させることによって、空間の各要素は再び曲げられることもできるでしょう。ですから、次のような一連の思考が可能です。一次元図形を曲げると、結果として生じる図形は二次元的である。曲げられた二次元的な図形は三次元的なものとなる。そして、最後に、三次元的な図形を曲げることによって四次元的な図形が生じる、と。このように、四次元空間は曲げられた三次元空間として想像することができます。

 この時点で、私たちは死んだものから生きたものへの移行を行うことができます。この曲げるということのなかに、死から生への移行を明らかにする空間的な図形を見いだすことができるのです。三次元への移行に際しては、四次元空間の特別な例が見いだされます。つまり、それは平らになったのです。人間の意識にとっては、死とは三次元的なものを曲げて四次元的なものにする、ということに他なりません。肉体をそれ自体で取り上げた場合には、逆が真となります。死とは四次元の三次元への平坦化なのです。

(第5講・了) 


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